自筆譜に想う

15年来の友人から、素敵な楽譜のプレゼントをもらいました。

留学中のオランダで買ってきてくれたものです。

 

タイトルは"Vogels op de Piano"(ピアノで奏でる小鳥、というような意味合いでしょうか)。鳥の名前を冠した7つの曲からなる小曲集です。

 

作曲家、音楽教育者であり画家でもあったオランダのAndries Hartsuiker(1903-1993)が、1942年、9歳の誕生日を迎える息子のために作曲しました。譜面から挿絵まで、すべて本人の筆によるものです。2002年に、自筆譜そのままの形で、Broekmans & Van Popple B. V.社から出版されました。

 

美しく彩られた挿絵やひとつひとつ丁寧に穿たれた音符、(息子にもわかるように)オランダ語で書かれた発想標語、ひとつひとつの曲に添えられた詩の一編や鳥の鳴き声の記述…。手書きだけに、父から息子への愛情がぐっと伝わってくるようです。

 

少し弾いてみましたが、どれもかわいらしく、ユーモラスで楽しい曲ばかりでした!この曲集を贈られた息子、Ton Hartsuiker(1933-2015)は、後にピアニスト・音楽教育者となりますが、コンサート等でもこの曲集を好んで演奏したそうです。この楽譜の巻末にも、この曲集ができるまでの経緯と、完成をワクワクしながら待っていた思い出などを綴っています。大切な大切な宝物だったのですね。

 

1942年といえば、オランダは戦禍の真っ只中。困難な時代に、このような温かな想い出が紡がれていたこと、こうして元の楽譜(原稿)が現存し、後世の私たちの手に届いたことの重みを思いました。

 

楽譜を出版するということは、音楽(と、それにまつわる人生、時代、空気…)を世界の、そして後々の人々に語り継いでいく、ということでもありますね。そのお手伝いをさせていただいている自分の仕事を、もうひとつ嬉しく思えた、そんな楽譜との出会いでした。